大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

東京高等裁判所 平成8年(う)1528号 判決

被告人 久須美邦弘

〔抄 録〕

事実誤認の論旨は、要するに、原判決は、被告人が新聞販売店経営者管理にかかる現金約五三万円などを窃取した旨認定しているが、被告人は同店従業員を騙して同人から右金員などを受け取ったのであるから、詐欺罪が成立するのはともかく、窃盗罪は成立しないので、原判決は事実を誤認している、というのである。

そこで検討するに、関係証拠によれば、被告人は、平成七年八月ころから原判示の新聞販売店に勤務して、配達、販売先の拡張などの仕事に携わっていたが、平成八年四月六日午前七時ころ、朝刊の配達を終えて店に戻り、借金申込みのため店長を待っていたところ、納金に来た顔見知りの女性集金係員が、納金担当係員の不在を知って出直そうとしたのを見て、とっさにその金を入手して逃げようと思いつき、右集金係員を呼び止めて、「これから所長のところへ行く用事があるから届けてやるよ。」と嘘を言い、その旨信用させて、同係員から原判示の現金と領収書控の入った茶封筒を受取り、そのまま逃走したことが明らかであり、被告人もこれを認めて争わない。

原判決は、右事実関係につき、被告人は集金係員を欺罔することにより、原判示の現金と領収書控に対して重畳的に存在していた右係員の占有と新聞販売店経営者の所有ないし占有を不法に侵害してこれを領得したもので、右集金係員との関係で詐欺罪が成立するのは別として、販売店の経営者との関係では窃盗罪が成立すると判断し、起訴状記載の訴因のとおり窃盗罪を認定した。しかしながら、本件の事実関係のもとにおいては、被告人は右集金係員からその占有・把持する財物を詐取したと端的に評価すべきであり、予備的に追加された訴因の詐欺罪が成立し、店の経営者の所有ないし占有の侵害は、詐取に伴う結果であって、右詐欺罪とは別に窃盗罪を構成するものではない。

(高木俊夫 岡村稔 長谷川憲一)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!